障害者福祉における「気分障害」とは?
障害者福祉業界における「気分障害」とは、感情の起伏が日常生活に支障をきたすほど強く現れ、その状態がある一定期間以上継続する精神障害の総称である。
主に「うつ病」や「双極性障害(躁うつ病)」がその代表例として挙げられ、本人の思考や行動、対人関係、就労能力などに大きな影響を与える。
これらの障害は、単なる気分の落ち込みや一時的な不安とは異なり、医学的な診断のもとで治療と支援が必要とされる状態である。
気分障害の中でもっとも一般的なのがうつ病であり、持続的な抑うつ気分、興味や喜びの喪失、疲労感、集中力の低下、食欲や睡眠の変化、自責感などの症状が見られる。
これらの症状が長期間続くことで、仕事や学業が手につかなくなったり、家族や友人との関係が希薄になったりと、生活全般にわたって支障が生じる。
一方、双極性障害は、うつ状態と躁状態を繰り返す気分障害であり、うつ病とは異なる特徴を持っている。
躁状態では、気分が異常に高揚したり、自信過剰になったり、衝動的な行動をとったりすることがあり、本人は体調の良さを感じているにもかかわらず、結果的に人間関係や仕事に悪影響を及ぼすことがある。
その後に極端なうつ状態に陥ることが多く、感情の波に本人も周囲も翻弄されることが多い。
このため、双極性障害は適切な診断と治療の継続が非常に重要である。
福祉の現場では、気分障害のある人が抱える困難を理解し、その特性に応じた支援を提供することが求められる。
たとえば、うつ状態のときは意欲や集中力の低下があるため、業務量や作業内容を柔軟に調整したり、無理のないスケジュールを組んだりする配慮が必要となる。
また、双極性障害の方に対しては、気分の変動を早期に察知し、悪化する前に対応できるような支援体制を構築することが望ましい。
気分障害は「目に見えない障害」であるため、周囲の理解が得にくいという現実もある。
外見上は元気に見えても、内面では苦しんでいることが多く、本人は「怠けている」と誤解されたり、過度なプレッシャーを感じたりすることがある。
支援者や職場、地域社会が気分障害についての正しい知識を持ち、当事者の声に耳を傾け、共に過ごす姿勢を持つことが、本人の回復と社会参加を支えるうえで不可欠である。
近年では、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスにおいて、気分障害のある人も精神障害者として支援の対象となり、就労移行支援や就労継続支援など、段階的な支援を受けながら働くことができる体制が整いつつある。
こうした制度を活用することで、症状の波を考慮しながらも、自分のペースで社会参加を進めることが可能となっている。
このように、気分障害は本人の生活に深刻な影響を及ぼす可能性があるものの、正しい理解と適切な支援によって、安定した生活や就労の継続が十分に可能となる障害である。
障害者福祉業界においては、精神的な障害に対する偏見をなくし、当事者一人ひとりの状態に応じた個別的かつ柔軟な支援を行っていくことが、真に包摂的な社会の実現へとつながる道である。